五回であと一点差をつければ、コールドゲームが成立する。


五回の表は旭日の攻撃、福岡先輩が出てくるはずの場面で、中江くんがバッターボックスに立った。


「福岡先輩、温存だな」


大島くんが漏らす。

点差が開いており、福岡先輩の肩を酷使しないために中江くんが起用されたのだ。

他の三年生のピッチャーもベンチ入りしていたのに、彼が交代要員に選ばれたのは同級生として鼻が高い思いだった。


「中江くん、頑張れ!」


大島くんと一緒に声援を送る。
彼は一年生期待の星でもある。

ピッチャーの手からボールが離れると、中江くんの体が瞬時に動きだす。
そして……。

――カキーン!

金属バットの高い音が響き、白いボールが真っ青な空を割くように上がっていく。

バットがボールをとらえた時点でホームランだとわかるような豪快なスイングに圧倒されて、ただ呆然とボールの行く末を追う。