「金なんてね。
 日々暮らしていければ、それでいいんだよ」
と畑で摘んできた明日葉を手に澄子は言っていた。

 澄子さん、好きだな。

 ハッピーエンドにならなくてもいいから、今のアパートにずっと居たいな。

 っていうか、今、この状態で、

「私、ハッピーなんですよね、結構」
とひなとは口に出して言っていた。

 どうした、突然、という顔で柚月が見る。

「いえいえ。
 あのアパートに住むと、皆さん、ハッピーエンドになられて、アパートを出ていくと伺ったのですが。

 私はあのアパートに住んでること、それ自体がハッピーなんですよ。

 隣に柚月さんがいらっしゃって。

 他の皆さんもご近所さんたちも楽しくて。

 あのまま、あそこに住んでいることが最高にハッピーな場合はどうしたらいいんでしょうね?」