初雪でも降りそうな夜だからこそ、布団に篭る熱がいつもより優しく感じられる。
人肌をほんの少し上回る温かさに導かれて、私は夢うつつを彷徨った。
お婆ちゃんに聞かされた話が甦る。
暖房も不十分だった昔は、湯タンポという器具があったらしい。
お湯を入れた容器を寝床に忍ばせておくと、明け方まで冷めずに暖気を保ってくれたとか。
実物を知らなくても、いや、見たことが無いから余計に、お婆ちゃんの説明は古の魔法の如く響いた。
まだ幼稚園の頃だからね。エアコンより、ストーブより、ずっと神秘的に思えたんだ。
湯タンポの魔法は、確かにその時の私を包んでくれていた。
心地好い思い出に筋肉を弛緩させて、緩やかに眠りに落ちる。
きっと朝までぐっすりと、安眠を楽しんだことだろう。
その湯タンポが、身動ぎしなければ。
右の二の腕を軽く押されて、意識が現実へ引き戻される。
湯タンポは、モゾモゾと動いたりしない。
何よりも、布団の中にいるのは、縦縞のパジャマを着た私だけだ。
寝惚けて勘違いしたんだと、体を強張らせて数瞬を過ごす。
自分の心臓が、煩いくらいに鼓動を早めた。
熱いんだか、寒いんだか、感覚が麻痺している癖に目と耳は冴えていく。
これが金縛り――紗代を怖がらせるのに何度もネタにした怪奇現象を、自分が味わうことになろうとは。
しかし、何秒待とうが、新たな刺激は感じられない。
やはり気のせいだと平常心を取り戻しかけた瞬間、声を聞いた。
「ぎゅいっ」
全力だ。
全身全霊を以って、上布団を捲り飛ばす。
体が言うことを聞いてくれたことに感謝しつつ、ベッドから転がり落ちるように床へ逃げた。
派手にぶつけた肘を摩りながら、ベッドの上に目を凝らす。
常夜灯の弱い光でも、異物の存在を見間違えたりはしない。
暖色に照らされた塊は、ちょうど猫ほどの大きさだ。
自分へ向けられた鋭い光点が二つ、これも夜に出くわした野良猫に似ていた。
「なんで……猫が……?」
「ぎゅいぎゅい?」
「ひっ」
猫如きに悲鳴を上げても、恥ずかしいとは思わない。
夜道ならともかく、自室のベッドにいたらおかしいじゃん!
いきなり!
猫が!
「ネコじゃないよ」
「ひいぃっ、しゃべ、しゃべっ!」
「そこまで驚かないでよ。喋るくらいするって。ネコじゃないんだから」
物怪、妖魔、深遠からの来訪者――今まで私の作り話に登場した異形たちが、ハロウィンパレードさながらに頭の中を駆け巡る。
一体、何者が私の日常に侵入してきたのか。
私は何に見入られたというのか?
ありったけの気力を掻き集めて、闇に光る目へ問い質した。
人肌をほんの少し上回る温かさに導かれて、私は夢うつつを彷徨った。
お婆ちゃんに聞かされた話が甦る。
暖房も不十分だった昔は、湯タンポという器具があったらしい。
お湯を入れた容器を寝床に忍ばせておくと、明け方まで冷めずに暖気を保ってくれたとか。
実物を知らなくても、いや、見たことが無いから余計に、お婆ちゃんの説明は古の魔法の如く響いた。
まだ幼稚園の頃だからね。エアコンより、ストーブより、ずっと神秘的に思えたんだ。
湯タンポの魔法は、確かにその時の私を包んでくれていた。
心地好い思い出に筋肉を弛緩させて、緩やかに眠りに落ちる。
きっと朝までぐっすりと、安眠を楽しんだことだろう。
その湯タンポが、身動ぎしなければ。
右の二の腕を軽く押されて、意識が現実へ引き戻される。
湯タンポは、モゾモゾと動いたりしない。
何よりも、布団の中にいるのは、縦縞のパジャマを着た私だけだ。
寝惚けて勘違いしたんだと、体を強張らせて数瞬を過ごす。
自分の心臓が、煩いくらいに鼓動を早めた。
熱いんだか、寒いんだか、感覚が麻痺している癖に目と耳は冴えていく。
これが金縛り――紗代を怖がらせるのに何度もネタにした怪奇現象を、自分が味わうことになろうとは。
しかし、何秒待とうが、新たな刺激は感じられない。
やはり気のせいだと平常心を取り戻しかけた瞬間、声を聞いた。
「ぎゅいっ」
全力だ。
全身全霊を以って、上布団を捲り飛ばす。
体が言うことを聞いてくれたことに感謝しつつ、ベッドから転がり落ちるように床へ逃げた。
派手にぶつけた肘を摩りながら、ベッドの上に目を凝らす。
常夜灯の弱い光でも、異物の存在を見間違えたりはしない。
暖色に照らされた塊は、ちょうど猫ほどの大きさだ。
自分へ向けられた鋭い光点が二つ、これも夜に出くわした野良猫に似ていた。
「なんで……猫が……?」
「ぎゅいぎゅい?」
「ひっ」
猫如きに悲鳴を上げても、恥ずかしいとは思わない。
夜道ならともかく、自室のベッドにいたらおかしいじゃん!
いきなり!
猫が!
「ネコじゃないよ」
「ひいぃっ、しゃべ、しゃべっ!」
「そこまで驚かないでよ。喋るくらいするって。ネコじゃないんだから」
物怪、妖魔、深遠からの来訪者――今まで私の作り話に登場した異形たちが、ハロウィンパレードさながらに頭の中を駆け巡る。
一体、何者が私の日常に侵入してきたのか。
私は何に見入られたというのか?
ありったけの気力を掻き集めて、闇に光る目へ問い質した。