朝の廊下は、見物客でひどく混み合っていた。


「ほら、あの人だよ」

「うそ、椿の姫が選んだ人って、あの人!?」

「確かに格好いい……」


軽く腕を絡めるようにして歩く二人は、全校生徒の注目を集めていた。

椿の姫は彼を見上げ、幸せそうに微笑んでいる。

美男美女で華があり、誰が見てもお似合いだった。



私のすぐそばを通っても、彼は知らないふりで。

本当に、私との関係は友人以下。

気軽に挨拶をすることすら許されない仲なのだと、思い知らされた。


彼の残り香を感じることしか、今の私にはできないなんて……。


ショックで目尻に涙が浮かびかけたとき。

鼻先に、ふわりと鈴蘭のような良い香りが降りかかった。

彼の香りが、消えてしまう。



「お似合いだね、あの二人」

「…………え?」


声の主へ誰も返事をしなかったので、どうやら私に話しかけていたみたいだ。


「……は、はい」


私の隣に立つ男の人は、華やかな二人の姿を見送り、わずかに口角を上げる。