【短】あの夏を忘れない



だから、私はあの夏を忘れない。

足早に過ぎて行った、今年の夏を…。


忘れない…ずっとずっと…。



この涙がいつか枯れて、胸の痛みがなくなったとしても。



彼を愛した証はこの心の中に。




貴方にとって、あの瞬間はどんな風に流れていましたか?



そんな届かない問いを一つ、高くなってきた抜けるような空に投げ掛けて、瞳を閉じる。



愛してるを、何百、何万、何億と囁いても、貴方は私のものにはならないことを身を持って知ったけれど。


貴方のいない時間はまるで私の中で永遠のことのようだけれど…。



私は、「これ、どうぞ」と喫茶店の店主から差し出された、真っ白いハンカチにハッとして…。

熱いコーヒーを飲み干したら全てを溶かしてしまおうと思った。


大丈夫。


この痛みは、賑やかな色とりどりのネオンの中に蕩かされ、いつか浄化されていくだろう…。




忘れられない夏の思い出、だけを残して。



Fin.