佑樹が居なくなり、1ヶ月が過ぎた。

この1ヶ月間、私は特に変わりなく日常を過ごしていた。

佑樹が居なくなったばかりの頃は、
少し周りが騒いでいたけど。

佑樹を殺害した翌日、私は普通に仕事をしていた。

「あれ?
またマネージャー代わったの?」

スタジオの廊下で、鳴海千歳とすれ違う時に私が挨拶すると彼は足を止めた。

そして、私の新しいマネージャーを見ている。

「はい。
急遽岡田あかりの担当になりました、
長谷川高貴(はせがわこうき)と言います!
僕、鳴海さんの書くドラマのファンなんです!
だから、こうやってお会い出来て嬉しいです」

「ああ。ありがとう…」

今日で私は、撮影中だった映画のクランクアップの日。

他の出演者は、まだ撮影が残っている人もいるけど。

「僕、前のマネージャーの北川とは同期なのですが、
彼、急に仕事嫌だって行方不明になって。
それが、今朝の出来事なんですけどね」

私の新しいマネージャーの長谷川君は、
演技掛かったようにため息を付く。

「えっ?どう言う事?」

鳴海千歳は興味深そうに、目を私に向けた。

「夕べ、北川から急に電話かかって来て。
仕事が嫌だから暫く姿消すって。
それを俺に社長に伝えておいてって。
一方的にそう言って、電話切って。
冗談かと思ったら、本当に今朝から音信不通で」

「朝、時間になっても迎えに来ないから佑樹に電話したら、圏外で。
だから、社長に電話したんですよ」

長谷川君の話の途中から、
私が話した。

私は佑樹が来ないと知っていて、
今朝、佑樹に電話をした。

そして、それを伝える為に社長に電話をした。

それからは、急遽私のマネジメントをする為に、社長から偶然この長谷川君に電話があったらしい。

長谷川君しか、空いてる人間が居なかったみたい。

そして、長谷川君は、佑樹からのその電話の内容をそのまま社長に話したらしく、
とりあえず、長谷川君を私のマネージャーに据える事にしたらしい。

「それで朝、私の入りの時間に遅れて、大幅に撮影が押してて。
私達の会社のせいですみません」

私はそう言って、鳴海千歳に頭を下げた。

それを見て、慌てて長谷川君も頭を下げる。

「へぇ、行方不明ね。
仕事が嫌に、ね。
北川君、一体どうしたんだろうね?」

私をそう言って見る鳴海千歳に、
なんだか全てを知られているようで怖くなった。

「本当ですね…」

反らしたら駄目だと思いながらも、
私はその鳴海千歳の顔から視線を反らした。