「まさかおまえ、藤崎になにも説明せずにここまで連れてきたのか?」
氷室さんの腕から抜け出しながらの問いかけに、氷室さんは頬を人差し指でかいて笑う。
「だってそんな時間なかったし。っていうか、職場が同じってマジで?」
「その言葉遣いやめろ。あと、俺の問いに答えろ」
四宮副社長は、背中がひやっとするような眼差しとトーンで言う。
そんな態度をとられているっていうのに、氷室さんはたいして気にするでもなくへらっと笑った。
「大丈夫、大丈夫。鈴は優しいから、たいていのこと許してくれるし」
「おまえのそういう、自分に都合よく一方的に解釈する部分は直した方がいい。おまえと藤崎がどれだけ親しい仲かは知らないが、事情も説明せず連れてきたことを、まず藤崎に謝れ」
四宮副社長があまりにキツイ眼差しを氷室さんに向けるものだから〝私なら大丈夫ですから〟と思わずフォローを入れそうになったところで、氷室さんが笑う。
「本当に大丈夫だって。鈴は優しいけど、一定ライン超えたら嫌がるし反論だってガンガンしてくるし。こう見えて案外怖いから。っていうか、四宮って昔から俺にだけ厳しいよね」
ヘラッとした笑みを見る限り、反省の色も落ち込んだ様子も見られない。
通常運転の氷室さんと、会社では見られないほど塩対応の四宮副社長。
ふたりの関係はわからないけれど、これが通常なんだろうか……。
そんな風に思い見ていると、氷室さんが私を見て説明してくれる。
このスペースだけになのか、クラシックのBGMが控えめに流れていることに今さら気付いた。



