氷室さんの車にもたまに乗せてもらうけれど、氷室さんの車はとても古いスポーツカーでナビがついていない。
それに加え、氷室さん自身も道を把握していないから、私はいつも携帯片手にナビをするのにてんやわんやだ。

なので、こんな風にのんびり景色を眺めるのは新鮮だった。

たくさんの車が引く、ヘッドライトのラインが綺麗だ。

四宮さんは、車で十分ほどの場所にあるイタリアンレストランに向かっているらしい。苦手じゃないかを聞かれたので、好きだと返した。

それからしばらくは、車内にBGMとしてかかっているピアノが奏でるクラシックの話やパスタの話なんかをしていたのだけれど、それが自然に途切れたところで四宮さんが聞いた。

「さっき、もしも遅刻したのが氷室だったら怒ったか?」

〝遅刻〟という単語で四宮さんが遅れてきたことを思い出す。
高級車だとかふたりきりでのおしゃべりだとか、色々と目まぐるしくて忘れていた。

四宮さんがどうしてこんなことを聞いてきたのか計りかねながらも「氷室さんだったら……」と考えてみる。

「とりあえず、約束の時間を五分過ぎたところで電話を入れて確認すると思います。氷室さんの場合、忘れてる可能性もあるので。電話に出なかったら〝帰る〟ってメッセージ入れて帰ります。……あ、なので、怒るか怒らないかだったら怒らないです」

それを聞いた四宮さんが「信頼してるんだな」と言うから、首をひねった。