「いえ。四宮さんが無事でよかったです。もしかしたらなにかあったのかなって心配していたところだったので安心しました」
「……怒らないのか? 上司だからと気を遣ってくれなくても大丈夫だ。三十分以上も待たされたら普通、恨み言のひとつくらいは出るだろ」

「え……でも、だって四宮さんはわざと人を待たせるような人じゃないですし。仕方ない事情があったんだなってわかりますから」

わからなそうに片眉を下げる四宮さんに続ける。

「ただ、やっぱりいくら心配でも気軽に電話することができないので、そこはじれったかったですけど、それだけです」

さすがに仕事中かもわからない副社長にプライベートの電話を入れるわけにはいかない。
だからそう言って笑うと、四宮さんは私をじっと見たあとでひとつ息をついた。

「藤崎は人がいいな。逆にそこを利用されないか心配になる。でも、だから氷室の面倒を見続けられるんだろうな」

「大きい弟だと思えばそこまでじゃないですよ」

クスクス笑うと、四宮さんは「俺は犬くらいに思っていないとイラッとくる」と呟くように言うからまた笑ってしまった。

信号が変わり横に並んでいた車が一気に動き出す。
いつも見ている景色でも、車内からだとこんなにも見違えるものなのかと胸がわくわくしていた。