「そうなんですね。お孫さん、気にかけてくれて嬉しいと思いますよ。帰り道、気を付けて行ってくださいね」

「親切にありがとう」と、頭を下げてお礼を言ってくれたおばあさんがゆっくりとした足取りで歩いていく。

その後ろ姿をなんとなく眺めていると「藤崎」と名前を呼ばれた。
振り向いた先、数メートルのところに車を歩道に横づけした四宮さんがいて驚く。

黒のセダンはもちろん自社製品。そのため、私にも価格がわかるのだけれど……考えた途端、さっと血の気が引いた。

たしかこの車はいくつかグレードがあるもので、最低価格が八百万以上だったはず。安全装備は最新だし走行性能も内装もトップクラス。

そんな車に今から乗るのか……と思うと、靴底を確認したくなった。粗相があったらまずい。

助手席側のウィンドウを下げた四宮さんが「藤崎」ともう一度呼んだのでハッとして駆け寄る。
そして、銀色に光るドアノブに手をかけそっと開けた。

「お、お疲れ様です」
「ああ。遅れて悪い。とりあえず乗れ」
「あ、はい」

靴やバッグがぶつからないよう細心の注意を払い車に乗りこんでシートベルトをしめた。