本屋に入って待っていてもいいのだけれど、そんな気にもならずにただ道の端に立って行き交う車を見ていると、十メートルほど離れた路上でおばあさんが転んだ。

どうやら無灯火の自転車に驚いて転倒したようで、慌てて駆け寄る。
その途中で件の自転車とすれ違う形になったので、乗っている男子高校生に「ライトついてませんよ」と声をかけたけれど無視された。

まったく最近の若者は……という、よくテレビで耳にするセリフが頭に浮かんだ。

「大丈夫ですか? 立てますか?」

腰を打ったりしていないか気になりながら手を差し出すと、おばあさんは私を見てハッとした顔をした。
それから申し訳なさそうに微笑み、私の手を掴む。

「ええ。ごめんなさいね。一歩後ろによけたつもりだったのに、バランスがとれなくなって……自分の体なのに嫌になっちゃうわ」

「私もよくありますよ」
「あなたは若いからまだまだ大丈夫よ。ああ、ありがとう」

落ちていたバッグを拾って渡す。
ゆっくり立ち上がったおばあさんは、どこかが特別痛いわけではなさそうでホッとする。

「これから駅に行くんですか?」
「そうなの。孫娘のところに行った帰り道なのよ。どうにも心配ばかりかける子でねぇ。まぁ、年寄りは心配くらいしかしてやれないからね」