天川支店の営業やエンジニアが不真面目なわけではなく、四宮副社長がとてもストイックなんだと思う。
休憩時間を挟まずに、時間が空けば店内を見回ったり、時には私がするような雑用まで手を伸ばす様子を見ていると本当に頭が上がらず、三十歳という若さで副社長を任せられているのが納得できる。
最初こそ、この若さでの副社長就任はお父様が役員だからだとかそういう嫌な噂も耳にしたりしたけれど、四宮副社長の真摯でストイックな態度を前に、もはやひがみだとかそんな次元は超え、ただただ羨望の眼差しが送られている状態だ。
……そういうわけなのだけれど。
そんな副社長と、なんで今、こんなことになっているんだろう?
見つめ合ったままぽかんとしてしまっている四宮副社長と私を見ていた氷室さんが、ふたりの肩をガバッと抱くように叩く。
それを合図に、我に返った。
「さっそく見つめ合っちゃって仲いいな。一目惚れか? 鈴、初恋じゃん」と笑う氷室さんに慌てて口を開く。
「失礼なこと言わないでください。こちらは私の勤務先の副社長です。氷室さん、ちょっとどういう事情があるのか説明してください」
和服屋に連れて行かれたときからずっと抱いていた疑問をようやく口にできた。
じっと睨むように見上げて言った私に、先に言葉を返したのは四宮副社長の方だった。



