『あの、それは本気で……?』
『こんな話を冗談でしない。俺は氷室とは違う』
『そうですよね……え、じゃあ本気で?』
『だからそう言っている』

そんな問答を繰り返したあと『どうして私なんか……』という、独り言みたいな私の疑問を拾った四宮さんは落ち着いたトーンで話してくれた。

『正直、恋愛には苦手意識があるんだ。俺は、相手が抱え込んだ気持ちまで察してやることができないから、今まで意図的にハッキリした性格の女性と付き合ってきた。気持ちを我慢されて後々面倒なことになるのが無駄だと思ったから』

『苦手……? だったら無理に私と恋愛しようなんて考えなくても……』
『苦手だし、誰かに対して感情的になること自体がまず理解できなかった。だから頭で考えてから行動に移していたし、こんなことを言うと冷たく思われそうだが気持ちを揺すぶられたこともない。でも、藤崎にはそういう計算抜きで惹かれてる』

四宮さんが浮かべる優しい微笑みに、胸がトクッと弾んだのがわかった。

『誰かに対して欲が出たのは初めてだ。だから、簡単に引くつもりはない』
『あ、の……』
『真面目で真っ直ぐなところがいい。案外威勢がいいところも礼儀正しいところも、優しいところも好ましい。なにより、一緒に過ごしていると癒される。まぁ、俺に対して気を遣いすぎなところはそのうち直してほしいし、氷室に対するように遠慮なしに接してほしいとは思うが、そこはじょじょにでいい』

にこりと目を細めた四宮さんは『だから、藤崎も真剣に俺とのことを考えてみて欲しい』とハッキリと告げたあと『近々、連絡を入れさせてもらう』と席を立ったのだった。