なにより。そんな整った外見を差し置いて目を引かれる、颯爽とした立ち姿は一度見たら忘れない。
背筋をぴんと伸ばした爽やかで凛々しい雰囲気は、先月、支店の社員みんなの前で挨拶をしたときと変わらずそこにあった。
「うーっす」と、場に似合わない軽い挨拶をした氷室さんに、私たちの前で足を止めたその男性は眉間にしわを寄せた。
社内でお客様がいないときにたまに見る顔だ。
「えっと……お疲れ様です。四宮副社長……ですよね?」
これだけの近距離だから間違えるはずもないのだけれど、一応聞く。すると四宮副社長だと思われる男性は、「ああ。お疲れ様。藤崎……だな?」と、少しだけ自信なさそうに聞き返す。
やっぱり。
〝やっぱり四宮副社長だ〟と〝やっぱり四宮副社長でも、場所が場所なだけに私が誰か確信が持てないんだ〟
二重の意味で〝やっぱり〟と思いながらうなずくと、その動作に髪が揺れ、そういえばアップにしているんだっけと思い出す。同時に、振袖と草履も思い出した。
私はこんな格好だし、四宮副社長が自信なさそうに聞いたのは仕方ないことかもしれない。
私は、大手自動車メーカーで受付の仕事をしている。高卒で入社したため、現在五年目で、今の天川支店に配属されてからは二年が経つ。
天川支店には、店長、チーフの他に営業が六人、エンジニアが七人、そして受付には私と派遣社員がひとりいる。



