「藤崎も大変だな。氷室が自炊すればいいだけの話なのに、巻き込まれて」
「俺に料理ができるわけがないじゃん。四宮だって、どうせひとり暮らし始めてから外食続きだろ?」

ケラケラと笑いながら聞く氷室さんに、四宮さんはシャンパンの入ったグラスを傾けながら答える。

「俺は休みの日は自炊してる。怠惰な生活を送ってるおまえと一緒にするな」
「えっ、マジで? うわぁ、じゃあ今度手料理食わせてよ」
「断る」

バッサリ拒絶されたことなんて気にも留めていない氷室さんは、明るい声で続ける。

「その前に俺、四宮に住所教えてもらってないんだけど。マンション、どの辺?」
「教えたくない」
「なんで?」
「言ったら来るだろ。だから」

私自身、氷室さんに対して若干冷たくしてしまっている自覚はある。
氷室さんはなにを言っても響かないから、一緒にいる時間が長くなると遠慮なしになんでも言っていい気がしてそんな対応になっているけれど……。

こうして傍から見ていると、普段の自分の態度をほんの少しだけ反省したくなる。

それくらいに、四宮さんは氷室さんに対してドライな反応しかしていない。

それでも、なにも感じていない様子の氷室さんには呆れを通り越して感心するばかりだ。スルースキルってこういうことか、と思う。

私にも身についていれば、塚田さんの態度もここまで気にならなかったのかもしれない。