なにも説明してくれない氷室さんに困惑しつつも、私もその視線を追い……言葉を失った。
大理石調のアイボリー色をした床が続くフロア。両サイドには橙色のカーペットが敷かれ、その上にカーペットと同じ色のソファが何台も置かれていた。
十卓ほどあるローテーブルは黒い長方形をしている。
奥にはグランドピアノまで置いてある。
優しい暖色のライトに照らされるそのスペースは、それだけでもとても素敵だけれど、一番目を引いたのは、間隔を空けて六鉢ほど置かれている、紅葉を始めた植木だった。
高さ二メートルには届かない木からは圧迫感のようなものは一切感じず、ただただ紅と緑の混ざった葉が綺麗で思わず見惚れる。
枝ぶりがもみじに似ている。
黒く艶のある四角い鉢も相まって、とても上品なスペースになっていた。
思わず、「すごい……」と呆けていると、こちらに歩いてくるスーツ姿の男性に気付く。
カツンカツンと足音を鳴らして近づいてくる男性に目が奪われたのは、その男性の容姿が整っているからでも、すらっとした高い身長だからでもなかった。
涼しそうな奥二重の目元にも、スッと通った鼻筋にも、綺麗な顎のラインにも。
そして、引き結ばれている、形のいい唇にも、軽く後ろに流している黒髪にさえ見覚えがあったからだ。



