恋愛経験がないどころか初恋も未経験でここまできてしまったのも、氷室さんが繰り返す、吹けば飛ぶほど軽い恋愛を間近で眺めてきたからかもしれない。

氷室さんの修羅場には中学の頃から巻き込まれてきたので、恋愛の怖くて淀んだ部分ばかりクローズアップして見せられたのは、ひとつの大きな原因だとは思う。

でも、それでも恋に一直線に走れる子はたくさんいる。そのポテンシャルを私は持ち合わせていなかった。元々恋愛に対して興味が薄いのだと思う。

誰かに激情にも似た感情を抱くのはどこか怖さや危うさを感じる。
この年になってもやっぱり想像もつかないのが現状だった。

朝食は大体、玉子料理とハムやベーコン、それと温野菜とトーストだ。食後にはヨーグルトをつける。

私が家事を担当している分、食費は氷室さんが多く出してくれている。
椅子の上に立膝で食べる氷室さんに「膝、お行儀悪いですよ」と注意してから、レンジで加熱したブロッコリーを口に入れる。

「そういえば、派遣のやつどうした?」
「まだどうもしないです。というか、私にはどうにもできませんし。とりあえず、後々問題になった場合にと記録はとってますけど」