『いや、急に時間変更しちゃったけど、大丈夫だったのかなって思って。富田さんは〝全然大丈夫ですよ〟って言ってくれたけど、一応、店にも確認とっておきたくて。せっかく店まで行っても車ができてなかったんじゃ二度手間だし』

「根津様、大丈夫ですよ。今朝、富田から話は聞いております。13時に車をお渡しできるよう、今作業を進めておりますのでご安心ください」

こうしてわざわざお店に電話を入れて確認してくるってことは、富田さんの安請け合いっぷりは、お客様側にも伝わっているんだろうか。

それはあまりよくない気がする……と思いながら、お客様が電話を切ったのを確認してから受話器を置いた。

それから、来店されているお客様にホットコーヒーをお出しして受付に戻ると、塚田さんはまだネイルを眺めていた。

二週間に一度は変わるネイルは季節感たっぷりで、最初は、自分でやっているのかな、すごいなという感想も浮かんだけれど、今はもうなにも思わない。

「藤崎さんって、なにをモチベーションに毎日働いてるんですか?」

キャスターつきの椅子を引き腰を下ろすと、塚田さんが話しかけてくる。
視線は爪に向けたままだった。

「モチベーション?」
「そう。なんかあるでしょ。なにか欲しいモノがあるだとか、管理職になりたいだとか」

ぼそぼそと話す塚田さんのトーンは完全にオフモードだ。
これが男性社員相手だとワントーン高くなるのにももう慣れた。