「服を贈らせて欲しい。今日の礼だ」

わずかに微笑まれ驚いていると、四宮さんはそのまま歩いて行ってしまうから、慌ててその後ろを追いかけた。

それでも、ここに来たときみたいに転びそうにならなかったのは、四宮さんが私に合わせて、だいぶゆっくりと歩いてくれているからだ。

服のことを言いだしたのだって、きっと私が振袖でどう帰ろうと悩んでいたことに気付いてくれたからだ。

「その後で、マンションまで送り届けるから心配するな」
「いえ、お礼なんていりません。でも、確かにこのまま電車に乗るわけにはいかないので……服屋さんまで連れて行っていただけるのは助かります」

「そうか」
「でも、お店までで大丈夫ですから、四宮さんは私のことは気にしないで先に……」

四宮さんはきっと忙しい。だから先に帰ってもらって大丈夫だと言おうとしたところを「とりあえず、店についてから決めればいい」と遮られる。

「今は、転ばないようにだけ気を付けておけ。そんな足元じゃ見ている俺も不安だ」
「あ、はい」

チラッと私の足元を見た四宮さんが、本当に心配そうに眉を寄せるから歩くことに集中して、お店についた後のことはいったん忘れることにする。

でも、それも四宮さんの計算の上にあるようで、さすがだなと思わずにはいられなかった。

なにもかもがスマートだ。スマートすぎる。本当に氷室さんの友達なんだろうか。
そんな失礼な疑問を浮かべながら、四宮さんの後ろを歩いた。

もちろん、足元に充分注意して。