その証拠に、さっきからラウンジ近くを通る女性がチラチラと四宮さんに視線を向けている……と考えて、その視線が私にも刺さっていることに気付く。

いつもなら感じない視線の数に、やっぱりこの振袖のせいだろうか、とやや恥ずかしくなる。

和装は、こういった格式高いホテルではおかしくないけれど、そこから先どうしよう。
和服屋さんまで私が着ていた服は、氷室さんの車のなかに置きっぱなしだということを思い出し、サーッと血の気が引いていく。

そもそもこの振袖はどうやって返却すればいいんだろう。浴衣と一緒で、普通のクリーニング店に出していいものなんだろうか。

勝手にされたことだからと氷室さんに丸投げなんかしたら「面倒だし買い取るからいいや」などと言いだしそうで怖いし、やっぱりなんとかして私が……ううん、その前にどうやって帰ろう?

このまま電車に乗って帰るのは避けたい。
贅沢だけど、タクシーを使うしかないのかな、と考えていると、四宮さんが「そろそろ出るか」と席を立つ。

「あ、はい」

まだタクシーという選択肢を選びきれないなか立ち上がり、四宮さんに続く。
ラウンジからロビーへ出ると、刺さってくる視線の数が一気に増え、うつむいて歩く。

こんな素敵な振袖を着ているんだから背筋を伸ばして堂々と歩いたほうがいいことはわかっていても、注目されることには慣れていない。
見え方やお作法よりも恥ずかしさが勝ってしまっていた。

「このホテルから歩いて五分もかからない場所に、アパレル関係が何店舗も入った駅ビルがある」
「駅ビル……?」

急に投げられた話題の意図がわからずにいると、四宮さんが顔半分振り向き続ける。