「うっかり、そういうの言わないまま好きだって告白してしまって……その状態でお母さんに会うなんて、ズルしているみたいじゃないですか」

ベランダには、冬の柔らかい日差しが届いていた。
それでも、洗濯物を干す指先はかじかむくらいに冷たい。

「ズル? まぁ、鈴は真面目だからなぁ。でも、元から四宮のおじさんとおばさん騙すための見合いだったわけだし。嘘なんか別に今さらだろ」

「それは、四宮さんのためっていう理由があったから……でも今は、完全に自分のためにズルズル黙ったままきている状態で……だから、ズルなんです」

「ズルズルきて、ズル……今のダジャレ?」と聞いてくる氷室さんを無視する。

四宮さんには、好きだと伝える前に言わなきゃと思っていた。
だからこそ、自分の気持ちに気付きながらも彼の告白に応えずにきたのに……昨日の夜、抱き締められた腕の強さに気持ちが溢れ出して、四宮さんを好きだという感情しか見えなくなった。

その場の感情を優先させた結果がこれだ。

自分自身がやらかしたことにため息をついていると、最後の洗濯物を干しながら氷室さんが言う。

「俺とか四宮の立場ってなると、うるさく言うヤツも周りにいるかもしれないし、あんまり呑気なことも言えないけど……四宮のところならまぁ、大丈夫じゃねーの」

見上げると、ニッと口の端を上げた氷室さんが私を見ていた。

「もし、万が一ダメだったら、今度こそ俺が嫁にしてやるよ」

あの公園で、何度も私を励ましてくれた笑顔が重なり、思わず笑みがこぼれた。