「あの公園で氷室さんが話していたこと、今も覚えてます。だから、今まで近くにいた私が急にいなくなるかもしれないと思って、どうやっても繋ぎ止めたくなる気持ちは私にも理解できます」

話し出すと、氷室さんがゆっくりと顔を上げた。
まだ情けない顔をする氷室さんに、少しだけ笑って見せた。

「でも私、氷室さんとはもともと他人ですよ。血の繋がりなんて一ミリもない、完全な他人です。家族でも友達でも恋人でもない私たちが傍にいる理由なんて、もともとないんです」

案外繊細な氷室さんを誤解させないようにと、すぐに続ける。

「それなのに十年も一緒にいるっていう実績は、ふたりでひとつひとつ積み上げてきた時間は、氷室さんのなかでは信頼には値しないんですか? 一緒にいる理由なんてひとつもないのに、ずっと一緒にいたじゃないですか。それでも、まだ繋ぎ止めておかなくちゃ不安になるような関係だと、本気で思ってるんですか?」

じっと見て聞くと、氷室さんは目を見開き……それから眉をハの字に寄せた。
答えを迷う様子は氷室さんにしては珍しく、それが不満だった。

その表情に、〝思っていない〟とすぐに返事をくれない姿に、なにを迷う必要があるんだとムッとして口を開く。

「あんなにたくさん話したのに? 毎朝叩き起こして、ご飯食べて、一緒に食材の買い出しに行って……あんなに毎日過ごしたのに? それなのに、私が四宮さんを選んだ途端、急に氷室さんを放って出て行くと思ったんですか?」

責めるような口調になったことに自分自身で驚きながらも止められなかった。
だって、本気で私が氷室さんをポイッと捨てるなんて思われていたならこんな心外なことはない。

今まで一緒にいた時間、してきたお世話。意味なんてない冗談めいた会話。
そういうもの全部を氷室さんは一体どう感じていたんだと腹を立てていると、氷室さんが言う。