「最初はなにも思わなかったんだよ。鈴の男っ気のなさも本気で心配してたし、相手が四宮ならぴったりだと思って、見合いの席に連れて行った。けどさ、俺が知らないうちに急に仲良くなってるし、それ見たらなんか……急に、さ」

言わんとしていることが分かってしまうのは、あの公園での氷室さんを知っているからだ。
きっと、知らないうちに他の男性と仲良くなって自分を捨てて出て行ったおばさんに私を重ねたんだろう。

氷室さんが私を母親代わりだと思っているわけじゃないのは知っている。
けれど、私たちはあまりに一緒の時間を過ごしてきたから、家族に似た感情を持つのは理解できたし、私だってそうだった。

「俺は、適当な恋愛ばっか繰り返す毎日で、鈴は恋人の〝こ〟の字もない生活。真逆だけど、同じ場所にいると思ってたんだよ。なのに、いつの間にか四宮が鈴を名前で呼ぶようになって、ふたりの雰囲気がそれっぽくなって……俺ひとり置いて行かれる気がした」

そう白状した氷室さんは、まるで叱られたこどものようだった。三十歳を超えた男性だとは思えない。

眉を下げた顔に、はぁ、とため息をつく。

「それで寂しくなって嘘ついたんですか」
「ガキじゃあるまいし」

私に続いた四宮さんの声からは、呆れがにじみ出ているようだった。

私も四宮さんと同じように呆れてはいるものの……過去の氷室さんを知っている以上、同じ場所にいる以上、そのまま放っておくなんてできなかった。

置いて行かれた、どうしようもない悲しさと寂しさ、喪失感……そして、ある日突然、なんのきっかけもなしに襲われる、頭を真っ暗にする不安は私にもわかる。