「俺って結構優良物件だと思うんだけどなぁ。金持ってて将来も安泰で、顔もよくて性格も柔軟。結婚相談所とか登録したらすぐ売れる自信があるのに。まさか断られた上、頭突きまでされるなんて思わなかった」
冗談を言う横顔を見て、唇を引き結ぶ。
三人の静かな部屋。カーテンの引かれていない窓からは夜空が覗いていた。
ゆっくりとダイニングテーブルに近づき、氷室さんの向かいの椅子を引く。真正面に座った私を氷室さんが見るのを待ってから口を開いた。
「氷室さんが普通にプロポーズしたなら、私だって頭突きしませんでした。礼儀を持って断ってました」
「どっちみち断られてるんじゃん。俺」と苦笑いを浮かべた氷室さんにうなずく。
「だって氷室さんが私をそういう対象として好きじゃないって知ってますから。氷室さん自身、私への感情が恋愛の類じゃないってわかってるくせにあんなこと言いだすから、頭にきて頭突きしたんです」
図星をつかれた氷室さんはなにも言い返さず、バツが悪そうな笑みを浮かべているだけだった。
そんな氷室さんに、今日、三度目の問いをぶつける。
「どうして、あんな嘘をついたんですか」
再三繰り返される問いかけに、氷室さんは〝またそれか〟とでも言いたそうに眉を寄せ笑い……それから、諦めたようにひとつ息をついた。



