「大学の頃から、氷室がタイヤメーカーのHMRの御曹司だって話は知っていた。俺はその頃から今の会社に入社しようと思っていたし、そうなった場合、あまり無碍に扱っていたら将来不利に働く可能性があると考えて……いたはずだったんだが」
そこまで真顔だった四宮さんが、わずかに眉を寄せる。
「気がつけば、あいつがあまりにいい加減なせいでひどい扱い方しかしなくなっていた。まぁ、それもまったく響いていないのか気にする素振りも見せないから、もう俺も気にしていないけどな。悪い意味で、気心が知れた仲とでも言うのが正しいかもしれない」
「気持ちはわかります。あの、お疲れ様です」
氷室さんの性格は結構ひどい。
私も真面目な方だから、四宮さんの言いたいことはよくわかった。
「ところで、藤崎はどうして氷室なんかと?」
不可解そうに聞かれ、苦笑いをこぼす。
どう説明するのがいいだろう……と考えてから、表面だけをさらっと撫でることにした。
「実家が隣同士なんです。今はお互い家を出てひとり暮らししているんですけど、その部屋も隣同士なので……」
「腐れ縁ってことだな」
「そうなんですかね」
氷室さんをそこまでひどくも言えずに笑っていると、背中をソファの背もたれに預けた四宮さんが言う。
「職場で見ている限り、辛抱強そうなタイプだとは思っていたが、その通りだったな。あの氷室のだらしなさを見て見ぬふりできずについ世話を焼いてしまう、真面目で相当に忍耐力の強い性格なんだろう。氷室に少しわけて欲しいくらいだ」
視線を私に向けた四宮さんが「部屋が隣同士というのも、どうせ氷室側からの頼みなんだろう?」と言うから、笑みをこぼしてから首を横に振った。



