「父親と同じことを言うのも嫌だが、できればプライベートでは〝副社長〟はやめて欲しい。話し方も氷室に向けるような、もっと砕けたものでいい。今は仕事じゃない」

「あ、すみません。えっと……四宮さ……ん」

一般社員の私からすれば〝副社長〟とお呼びするのが当然だけど、副社長からすれば会社以外で責務を感じさせる役職で呼ばれるのは気分がいいものではないのかもしれない。

とはいえ、かなり目上の方をどう呼ぶのが正解なのか。

〝四宮さん〟と〝四宮さま〟、正しいのはどちらだと悩んだ末に前者を選ぶと、四宮さんが目を細めるからホッとする。

四宮さんはその後で、バツが悪そうな笑みを浮かべた。

「あんな親で申し訳ない」
「あ、いえ。こんな言い方は失礼かもしれませんが、私にもフレンドリーに接してくれるので救われました」

同じ会社だと知った四宮役員は、すぐに『今日は無礼講で頼むな。ただのおじさんだと思って接してくれ。休みの日にまで〝役員〟なんて呼ばれると肩がこって困る』と笑ってくれたのでまだ助かった。

「あの、四宮副社……四宮さんって氷室さんのお友達だったんですね。タイプが違うので少しびっくりしました」

〝少し違う〟どころか真逆に近いように感じる。
氷室さんはああいう人だから誰とでも友達になるんだろうけれど、四宮さんはもっとシビアに友達を選びそうなのに……と思っていると、四宮さんは「友達というよりは腐り縁だな」と答えた。

氷室さんがホテルスタッフに貸し切り終了の話をしてくれたようで、女性の二人組が離れたソファに座る。