「氷室に言われたんだ。社内ではあまり鈴奈を構わない方がいいと」

当然のように呼び捨てにされドキドキしながらも「え……氷室さんに?」と聞き返す。
四宮さんはコーヒーをひと口飲んでから、カップをテーブルに戻す。

「他の社員に見られて周りにねたまれてなにか言われたとしても、鈴奈はうまくかわせるタイプじゃないから、と。言っている意味はわかったし、俺としても鈴奈に嫌な思いをさせるのは本意じゃない。あの時は、鈴奈からは見えなかったかもしれないが、バックヤード側に他の社員も複数いたから、親しそうに話さない方が得策だと思ってそうした」

私に視線を向けた四宮さんが「気にさせたなら悪い」と謝るから、首を横に振る。

「あ、いえ……そうですよね。私の方こそ考えが及ばずすみません」

そもそも、四宮さんは副社長だ。
最近は社内で副社長として接する時間よりも、プライベートで会う時間の方がはるかに長かったので感覚がおかしくなっていた。

私が社内での距離感を計り直す必要がある。

反省していると「鈴奈」と呼ばれ顔を上げる。
隣に座る四宮さんは、開いた膝にそれぞれ肘を乗せ、間で手を軽く組んでいる体勢で私を見ていた。

四宮さんが前に体を傾けているから、自然と私の方が目線が高くなる。少し見上げられているような眼差しにドキッとした。

「ひとつ、確認しておきたい」
「なんですか?」
「今回、氷室が鈴奈に嘘をついたのは、ただの悪戯心ではない気がしている」