「そんなに昴貴のこと想ってくれてるのね。なんだか感動しちゃった……。この子ったら学生の頃からずっとすました顔してて、女の子に興味があるのか結構本気で心配してたのよ。だから今日は鈴奈ちゃんに会えて安心できたし、それに、昴貴のお相手が鈴奈ちゃんで本当に嬉しいわ」
お母さんの反応に、チクチクと良心が痛む。
なんとか笑みを返しながらもチラリと様子をうかがうと、向かいに座っている副社長はじっと私を見て小さくうなずいていた。
〝なんとか乗り越えてくれ〟という念が伝わってきて、私もコクリとうなずく。
氷室さんは既に退屈そうに、近くにある葉っぱをいじっていた。
巻きこんでおきながらこの態度はどうなんだろう……と、じとっとした目つきで見ていると、それに気付いた氷室さんは取り繕ったような笑顔を浮かべ席を立つ。
「じゃあ、話もひとまず終わったみたいですし、この辺で俺たちは退散しますか」
氷室さんが目くばせをすると、副社長のご両親が「そうだな」「そうね」とにこやかな笑顔を浮かべ席を立つ。
だから私も……とソファの肘掛に手を置いたところで「あ、鈴奈ちゃんはそのままでいいの」とお母さんに止められてしまった。
「あとは若いおふたりで、ね。……なんて。やだ、この台詞言ってみたかったのよぉ」
パチンとウインクをされ返事に困っている間に、氷室さんと副社長のご両親は賑やかにラウンジから離れていく。



