私たちは、ホテルのラウンジの一角にあるローテーブルを囲んでいるけれど、他にお客さんの姿はない。こんな素敵な雰囲気なのだから、いくら平日とは言え、もっと賑わっていてもいいはずなのに……と不思議に思っていると、氷室さんが「貸し切った」と言うから思わず呆れてしまった。
そういう無駄遣いはやめた方がいいといくら言っても聞いてくれないのは昔からだ。
氷室さんのところのおじさんはあんなに真面目な人なのに……どうしてこうもいい加減に育ってしまったんだろう。
周りにいる大人の影響や環境なんて案外あてにならないものなんだと、ふたつの家族を見てぼんやりと考えていた。
「実はサプライズでしたー」という氷室さんのふざけたテンションで始まった顔合わせ。
作戦内容は、当初とは少し変わっていた。
最初は偽お見合いをすればご両親も安心するだろうという作戦だったらしいけれど、副社長と私が同じ職場ということから、急きょ、お付き合いしている相手という設定に変わった。
その方が自然なのと、交際相手として紹介した方が、よりご両親を安心させられるという理由からだ。
お見合い相手ではなく実は四宮副社長の交際相手を連れてきていて紹介しちゃうサプライズ……プレゼンティッドバイ氷室、状態。
だから、副社長と私は、お互いのプロフィールを直前で頭に叩き込み、本番を迎えていた。



