「鈴、それ結構俺が傷つく」
「いや、藤崎からしたら当然の疑問だ。仕方ない」
クックと喉の奥で笑う四宮副社長を、少し驚いて眺めた。
四宮副社長のこんな風に笑う姿を見たのは、出逢ってから初めてだった。
「へぇ、そうなの! 同じ会社なのねぇ! いいじゃない、職場恋愛。オフィスラブって言うんでしょう? しかも鈴奈ちゃんは高校卒業してすぐに就職したなんて、まだまだ遊びたい年頃だったでしょうに偉いわぁ」
「本当だよなぁ。俺なんて鈴奈ちゃんが入社して頑張ってた年齢の頃は、大学サボって遊び回っていたからなぁ。三年になって周りとの温度差に急に気付いたけど、あのときの焦りは今でも忘れないな。氷室くんもどうせ俺と同じクチだろ」
四宮副社長のお父さんに話を振られた氷室さんは、カップに入ったコーヒーを飲みながら「いや、俺の方が賢かったですよ」と笑う。
「だって俺は、一年の時からレポートはちゃんと提出してましたもん。当時中学生だった鈴に手伝ってもらって」
「どっちもどっちだ」と言う副社長の言葉に、「それもそうだな」とお父さんがハッハと笑う。
その様子を愛想笑いを浮かべながら眺め、まず疑ったのは失礼ながら病院での赤ちゃんのとり間違いだった。
氷室さんと四宮副社長の年齢は一緒だし、同じ病院で同じような日に産まれたんじゃないだろうか。それで、不幸なことになにかの間違いから赤ちゃんが入れ替わってしまって……と、そこまで考えて〝いや、無理だ〟と首を振った。
さっき、速攻で頭に叩き込んだ副社長のプロフィールを思い出す。ふたりの誕生日は近くなかった。



