「いやー、よかったなぁ。鈴。もう少しで俺の出番かと思った」
塚田さんのことを報告すると、氷室さんは嬉しそうに笑った。
いつか氷室さんが言っていた〝塚田さんをHMR御曹司の肩書で釣って騙して捨てる〟という作戦を思い出し、苦笑いをこぼす。
「氷室さんは本当にしそうだから怖いです」
「派遣社員だろうが、雇っている以上うちの会社の管轄だ。面倒な問題を起こされても困る」
私に続いたのは四宮さん。
四宮さんはいつの間にかちょこちょこ氷室さんの部屋を訪れるようになっていて、こうして夕食を三人で囲む機会も増えた。
氷室さんがタイミング悪くなんだかんだと呼びつけるので、未だふたりきりで外食はできていないけれど、週に一、二度はプライベートで顔を合わせている状態だ。
四宮さんに告白されてから三週間。
正直に白状すると、四宮さんに惹かれているし付き合えたらいいなとも考えている。仕事に対する真面目で厳しい態度も、私に見せてくれる優しい表情も好きだ。
それでも……彼の副社長という立場を思うと、私では不釣り合いな気がしてなかなか一歩が踏み出せないでいた。
四宮さんは軽い気持ちで付き合ったりはしない人だ。となると、その先には結婚という道も見えてくるし、そうなった場合、ふたりだけの問題ではなく家同士の話になる。
四宮さんのご両親はとてもいい人たちだったけれど……お父様は今MUSEの役員をしていて、四宮さん本人は副社長という立場だ。
一族経営というわけではないにしても、血筋だとかそういうものがまったく関係ないというわけでもない気がする。
四宮さんの結婚相手にはきっと、心の内で望んでいる最低条件くらいはあるはずだ。
それを考えると、自然と気が滅入っていた。



