おばあさんと話し終わった頃には、時計は二十一時近かった。
他の社員はもう残っておらず、四宮さんは自然な流れで「遅くなったし送っていく」と言い、ふたりでお店を出る。
そのまま四宮さんの車に乗り込みしばらく走ったところで口を開いた。
「今日はすみませんでした」
静かな車内。目を伏せたまま謝罪した私に、四宮さんはわからなそうに「なんのことだ?」と聞く。
「塚田さんのおばあさんがいらした時……その、ひとりで大声を出して慌ててしまって。それを見た四宮さんが怒っているように見えたので、もしかしたら幻滅させてしまったかもしれないと思って」
富井さんを巻き込んで転んだ私を起こしてくれた四宮さんの顔は、わずかにしかめられていた。
いい大人が幽霊を怖がって職場で叫び転んだのだから、幻滅されてもおかしくはない。
あの時のことを情けなく思って言うと、四宮さんは「あれは怒っていたわけじゃない」と答えた。
「ただの嫉妬だ」と続いた言葉に驚き、顔を上げる。
隣を見ると四宮さんはバツが悪そうな笑みを浮かべていた。
嫉妬って……まさか富井さんに?
「あの、でもあれは咄嗟で……」
「わかってる。だから気にするな。俺も自分が情けなくてあまり引きずりたくない」
情けないなんて思わない。思わないけれど……その横顔が本当に少しきまりが悪そうに見えたので、なにも言えなくなる。
でも、あんな些細なことにもやきもちを焼いてくれるくらい想ってくれているのは素直に嬉しいと感じた。



