「本社での会議を終えて戻ってきたらお客様がドア前にいた。だから用件を聞き中にお通ししたら、なぜか叫ばれ倒れ込まれた……というわけだ」
腰を抜かしていた富井さんが、よろよろと立ち上がる。
その顔を、〝幽霊じゃないじゃないですか!〟という思いで睨みつけると、苦笑いを返された。
〝ごめーん〟という声が聞こえてきそうだ。
「すみません……。その、コオロギが入り込んだみたいで、飛びかかられたのでびっくりして」
おばあさんの手前、まさか幽霊だと思ったとは言えずに誤魔化すと、四宮さんは〝まったく〟とでも言いたそうな顔でひとつ息をついた。
情けないところを見られてしまい、塚田さんの件も含め落ち込みたくなりつつも、お客様の目があるのでぐっと堪え笑顔を作った。
「取り乱してしまって申し訳ありません。本日はもう営業時間を過ぎているのでご要望にお応えできるかわかりませんが、どういったご用件でしょうか? ……あの、失礼ですが、どこかで会ったことありませんか?」
目の前に立ってみても、やっぱり見覚えがある気がして聞く。
たぶん、つい最近だ。でもどこで……と考えていた時、おばあさんがにこりと微笑んだ。
「半月ほど前になるかしら。この先にある書店前で、転んだところを助けてもらったのよ。あの時は親切にしてくださってどうもありがとう」
「あ……そうでしたね」
四宮さんを待っている間の出来事を思い出しスッキリする。
でも、どうしてそのおばあさんがここに……という疑問は、続いた言葉にすぐに解けた。



