四宮さんの肩越しに小さな三日月が見えていた。

「気付かない振りをして帰った方が藤崎はいいんだろうとも思った。けど、藤崎がひとりで泣くのは俺が耐えられない」

自嘲するような笑みを浮かべているのが分かるような声で「だから悪いな」と謝った四宮さんに、ああそうか、とすべてを悟った。

『それにね、塚田さんの件は店長も上から色々注意を受けてたみたいだし、派遣会社にももう連絡はしてるって話だから』

あれは、四宮さんのことだったんだ。

『一ヵ月くらい前かな。店長から塚田さんについて軽く聞き取りされて、その時に私も知っている限りを報告しておいたの』
『あー、うん。たぶん、鈴奈ちゃんは自分の発言が塚田さんの処分に繋がるってよくわかってるからギリギリまで我慢しちゃうんじゃないかって考えたんだと思うよ。だから気を遣ったんだよ』

気を遣ってくれたのも店長じゃなくて四宮さんだ。
そう考えたらすべてが繋がって、ストンと心の中に落ちた。

『俺が職場の上司だってこと、忘れてるのか?』
『週に一、二度、天川支店に行くようになってからもう二ヵ月経つ。社員の仕事ぶりくらい把握してるし、藤崎のことは浅尾からよく聞いてる』

四宮さんは、塚田さんと私のことをしっかりと見て影で動いてくれていたんだ。

今日だって、きっと塚田さんとのことを知って待っていてくれたんだ。仕事で忙しいのに、わざわざここまで来て、私のことを心配してくれて……。

それがわかり、一度は収まった涙がまた浮かび始めていた。
優しい腕に抱き締められていると、自然と弱音がこぼれた。