「どうしよう……」

心臓がドクドクと嫌な音を体中に響かせる。それだけ速く大きく鳴っているのに、貧血のように気が遠くなる。

ただただ不安に襲われなにも考えることができずにいた時、それまで無人だったはずのフロントに「聞こえちゃった。鈴奈ちゃん、大丈夫?」と聞こえてきた。

咄嗟に顔を上げると、浅尾さんがバックヤードから出てきたところで……その顔を見た途端、涙が浮かんできた。

「浅尾さん……どうしよう、私……」

私が泣きだしそうだとわかったんだろう。
浅尾さんは、落ち着かせるように私の両肩をポンポンと撫でながら笑う。

「大丈夫。我慢はよくないし、吐き出せてよかったよ。そのうち爆発しちゃいそうだなとは思ってたんだけど、もしかしたら自分を追い詰める方向になっちゃったらどうしようって実は心配だったんだよ。だから塚田さんにしっかり吐き出せてよかった」

「でも……」
「塚田さんはあんまりだし、誰だってブチギレするって。よく十ヵ月も我慢したよ。私だったら殴りかかってた自信があるもん。〝この給料泥棒がぁー!〟って。だから鈴奈ちゃんは全然大丈夫だよ」

私を安心させるように〝大丈夫〟を繰り返す浅尾さんが続ける。

「それにね、塚田さんの件は店長も上から色々注意を受けてたみたいだし、派遣会社にももう連絡はしてるって話だから」

「え……」

上からって……本社の誰かからということだろうか。
でも、あの事なかれ主義の店長が行動に移すなんて余程だし、相当立場のある人から注意されたって考えるのが自然だ。

派遣社員の働き方や態度について、知らないうちに本社が監査でもしたのかもしれない。