「まぁな」
そう答えた先輩の横顔を見て、胸が少し苦しくなった。
明るく振舞ってるけど、内心かなり寂しいんじゃないのかな。
だって、転校だもん。
……友達とも、暮らしてきた町とも離れるんだ。
私はすごく寂しい。
「佐竹も寂しいだろ?優しい先輩がいなくなって」
こちらに再び向けた先輩の表情は明るかった。
私はそれを見て、何気なく目を逸らす。
「……そこまで?」
「かぁー、ひどい後輩。ほんとに素直だな」
「……」
「ま、そういうとこも佐竹の良いとこなのかもな。俺も退屈しなかったし」
先輩はそう笑って近くの椅子に腰を下ろした。
……ふーん。
そんな風に言ってくれるなんて珍しい。
先輩は……素直ですね。
「先輩って何県に行くんでしたっけ」
「千葉」
「千葉か……、行けないこともない距離ですね」
「だろ?友達も遊びに来るらしいわ。ほんとに来るのかは知らん」
「……へぇ。家は一軒家ですか?」
「マンションだなー。でも広くて綺麗らしい」
「ふぅん、良いですね」
「おう、佐竹も遊びに来ていいぞ」
椅子にもたれて調子良く言ってみせる先輩。
一瞬自分の心臓が強く反応した気がした。
「遊びにって……どうやっ……」
私はそこまで言って、言うのをやめた。
私は先輩の連絡先を知らない。
だから、「どうやって連絡するんですか」って言いかけた。
……でも、なんか、
連絡先聞こうとしてるように思われそうで。
言いたくなくなった。
「……?」
「無理ですよ。私お金ないですし」
「おま……現実的過ぎるだろ」
「事実ですもん」
「はいはい、そうですかー」
先輩はそう言ってまた窓の方へ顔を向けた。

