もう駅が見えてきた。
……今日で先輩ともう会えなくなる。
話すのもきっとこれが最後。
私の足取りは重くなるけど、先輩は何も言わず私のペースに合わせて歩いてくれていた。
優しい。
先輩はほんとに優しいんだ。
「この駅使うのも最後かな〜」
「……」
「もうあの学校通わないのかぁ」
「……」
先輩の話す一言一言が耳に残る。
全部切なくて胸が締め付けられた。
ああ、もう駅に着いてしまった。
……何か、最後に話さなきゃ。
でも今更何を話せばいいんだろう。
先輩はもう行ってしまう。
……それならもう、いつも通りの会話の方がいいよね。
どうせ私が何を言っても先輩が引っ越さなくなるわけじゃないから。
先輩が気持ち良く向こうへ行けるように、柄にもないことを言うんじゃなくて、いつもの私らしいままでいた方がいいよね。
……すみません、先輩。
私は先輩みたいに素直な人にはなれません。
「先輩……どうかお元気で。荷造り終われるといいですね」
「あぁ、サンキュー。佐竹も元気でな」
これでいい。
引き止める言葉なんて、言えない。
想いを伝える勇気なんて、私にはない。
だからこれでいい。
先輩の笑顔を目に焼き付けて。
私はここで……1人で先輩を想う。
先輩を忘れられる日が来るのだろうか。
まぁ、そんなことは今は考えないでおこう。
涙を堪えるので精一杯なんだから。

