「松木さん…」
「え…?」
繁華街手前のバス停に、エンジン音を轟かせて彼女の学校へと繋がるバスが近付いてくる。
半分後ろを向いた所で、彼女が俺に声を掛けてきた。
教えたばかりの名前を呼んで。
「本当に、ありがとうございました。あの、また…私と会ってもらえませんか?」
控えめな懇願。
そんな言葉が頭をよぎる。
彼女は何かを恐れ、何かに苦しめられている…。
何故かその時、そう直感した。
「…こんな、おじさんでもよければ」
なんだ、俺だってこんなまともな受け答えが出来るんじゃないか…。
そう思って、なんとなく溜息が出た。
灼熱の太陽の下で交わされた約束。
別に、その刹那的な束縛を全て素直に受け止めたわけじゃない。
相手は自分よりもずっと下の学生だ。
危機を助けてもらった後の安心感と少しの高揚感から、気紛れに出た言葉かもしれないし、単なる社交辞令かもしれない。
なのに、俺は…微笑んだ。
無意識の内に。



