暑熱…そんな言葉が足元から這い上がってくる。


たらり、とこめかみから頬の辺りに汗が伝った。


この汗は、空調設備の良い通勤電車から飛び出した瞬間に、ドッと噴き出してきた気分の悪い液体の塊…。


俺は、駅の改札から出てすぐに、くらり…と頭の芯が回転するのを感じた。


「あつ…」


今日唯一吐き出した呟きは喧騒に描き消される。

 
太陽は、都会ならではのビルの高さと排気ガスのスモークのせいで、その姿をきちんと現すことがないのに、ギラギラと痛いくらいに肌を刺し、殺気立っているようだ。


『ちっ』


隣を過ぎて行った大学生くらいの男子が、心底忌々しいといったように、舌打ちをした。



狂ってる。



そうだ、狂ってるんだ。


世界は何時だって、俺を置いて廻っていく。


俺だけを置いてけぼりにして。