「…うれしい」


「ほんと?」


「うれしい、めちゃくちゃ嬉しい、なんか、意味わかんないくらい、嬉しいっ……」



再び鼻がツンとして、けれど目の中の水溜りが溢れ出す前に、彼に腕を引かれた。


すっぽりと腕の中に収められたかと思えば、すぐに背中に腕が回って、身動きが取れないくらいしっかりと抱き締められてしまった。


───あの、シャンプーの香りがする。



「……せつか、先輩」


「っ、は、はい」


「誕生日、おめでとう、ございます」



ふわりと、のし掛かっていた重りが空気と一緒に宙を舞う。


ああ、そうか。私が恐れていたのは、生まれた年が違うせいで起こる価値観のズレだとか、そこから生まれてしまう心の距離だったんだ。

別に、一個違おうが二個違おうが、そんなことはどうだってよかったんだ。


彼が私に共通項を見出せなくなってしまいそうで、関心を持ってもらえなくなりそうで、それを恐れていただけだったんだ。


彼が、いてくれさえすれば、それだけで満たされる不安だったんだ。



「………ふふふふ」


「……泣いて照れて、今度は笑ってるんですか」


「ごめん、だってなんか、すごいあったかくて」


「まあ、男の方が体温高いって言いますしね」



そういうことじゃないんだけどなあ。なんて言うのは野暮な気がして、そうだねとだけ告げた。


なんだか、わたし世界でいちばんの幸せ者な気がしてきた。ていうか絶対そう。だって今、大好きな人に抱きしめられているんだから。



「……同い年って、たしかにすごい親近感わくけど、それは別に一つの要素でしかないんですよ、俺にとっては。」


「…うん」


「その一つが欠けたとしても、同じもの見て同じもの一緒に食べて、そういう共通点増やして行ったら、あっさり補えるんじゃないかって俺は思ってます」


「……うん」


「…………だから」



緩められた腕を合図に、どちらからともなく視線を重ねる。

揺らぐことなく、まっすぐに突き刺さるその視線が、たまらなく好きだと思った。