どこまでも広がる青い海。

 この前見た時は純粋に美しいと思えたが、今日はそのように思えない。むしろ、広すぎて何か大切なものが飲み込まれてしまいそうな錯覚を覚えさえする。

 この前美しいと感じたのは、きっと隣に海を見て無邪気に喜ぶアリシアがいたからだったのだろう。

 そんなことを思っていると、向こうの方──どうにか見えるくらいの距離にいる一隻の船に気づいた。しかも、その船からは何か黒いものがもくもくと上がっている。



(煙か……?)



 さらによくよく目を凝らすと、甲板では何か大きな赤い旗のようなものが大きく振られている。その上船は風に流されるような動きをしているようにも見えた。



「カイっ!」



 イルヴィスは振り返って叫ぶ。

 そして、その船の方をまっすぐ指さした。



「あの船、様子がおかしくないか」


「煙が出ているようだ。何かトラブルがあったのかもしれないな。見に行ってみるか」



 船の上で火事が起きていたりしたら大変だ、とカイは進路をあの船の方へ変えるよう指示を出した。