知らないのはカーラの生い立ちと、どうしてディアナを誘拐するに至ったかだ。

 その辺りを詳しく聞きたいのだが、カーラは「アタシもこの前まで知らなかった衝撃の事実なのに、何故隣国の令嬢が知っている……」とブツブツ言ってなかなか話が進まない。



「ねえ、続きは?」


「……はあ。まあ良いです。そんなことまでご存知のアリシア様なら知っていらっしゃるのかもしれませんが、アタシの母さんが半年ほど前に亡くなりましてね。その時に──」


「ええっ?ジルさん、お亡くなりになっていたの!?」


「あ、それは知らなかったんですね……」


「そんな……お悔やみ申し上げるわ」



 愛読書の著者の訃報を思いがけないタイミングで知り、言葉を失う。

 そしてアリシアが黙ったのを好機とばかりにカーラは一気に話し始めた。



「母さんは病気で亡くなったのですが、自分の死期を察した頃、今まで聞いても教えてくれなかった父のこと、それから自分の罪について話してくれました」



 カーラの母親──ジルは、若い頃から王宮のお茶係として勤めていた。

 ある時、城を訪れていた、未婚のクラム公爵と出会う。普通なら話すことすらないはずだったが、偶然ジルが公爵の落としたハンカチを拾ったことで、交流が始まった。