私はすっかり警戒心を忘れ呆気に取られていた

…「くくっ…。随分面白い女だ…。
  それと声だだ漏れだぞ?」

「あっ!マジか…スミマセン…。」

その男は私に近寄ってくる

…「お前も十分美しい顔立ちだ…。
  不思議な奴。桜の精でも降りてきた
  かと思ったぜ…。」

そう言いながら私の髪を梳いた

他人に触れられると技をかけてしまう私は
この時ばかりはボーッとしていた

この男はどうやら少しポエマーな所が
あるようだ

「ふふっ…あはは!桜の精って!」

私は可笑しくて笑っていた

…「桜の精じゃなくて、
  とんだお転婆娘だったらしいな。」

「なっ、失礼な!」

…「悪かった、悪かった。
  変わりに良いことを教えよう。」

私の耳元で男は囁くように話した

…「俺なら“あの方”の情報を知っている。
  俺について来ないか?」

“あの方”というワードを聞き、私は直ぐさま男から離れる

「何で知っている?何者だ、お前は。」

…「安心しろ。俺は“あの方”の仲間じゃ
  ねぇ。情報を教える代わりに俺に
  着いてきてくれないか?」

(どうしよう…。私が喉から手が出る程
 欲しがっていた情報が手に入る。
 でもこの人も怪しいし…。)

「私は…。」

…「なぁ…、悪い話じゃねぇだろ?」

男は手を伸ばしてくる

敬幸「警官の前で未成年に手を出すとは
   良い度胸じゃねぇか。」

トシが男の手を払いのけ、私のことを
抱き寄せる

敬幸「ナンパなら他をあたりな。」

…「なるほど…。随分手強い番犬を
  連れているのか。
  安心しろ、ナンパじゃねぇよ。」

トシは相変わらず睨んだままだった

…「おい、桜姫とやら。
  もしあの話に興味あるなら1週間後…
  またここに来い。」

そう言い残し男は去っていった

辺りは途端に静かになり、風も止んだ

敬幸「分かっていると思うが、あの男に
   もう近づくんじゃねぇぞ。」

今度は私に睨んできた

「わ、分かってるって…。」

敬幸「…分かってるんならいいんだ。」

そして優しい表情になる

(表情の差、激し過ぎでしょ…。)

「それにしてもトシ、警官だったんだね」

敬幸「あぁ。昼間は人間界で仕事して
   たまに集落に帰るっていう生活を
   してて、本格的にここで生活しよう
   って思ってたからな。」

「お仕事お疲れ様!」

敬幸「たった今、未成年を家まで送る
   という仕事がまだ残ってたがな。」

「はーい…、そうですねー。」

苦笑いをしながら私達は帰路に付いた