勇吾「姉上、姉上!待ってよ!」

俺は姉上の背中をいつも追いかけていた

…「なぁに?勇吾、そんな慌てて。」

勇吾「姉上が何処かにいってしまう気が 
   して…。」

…「そんなことしないわ。私はずっと
  勇吾の傍にいるもの。」

姉上は俺を優しく抱きしめた

俺の姉は人でいうと9つ上でずっと親代わりをしてくれていた

勇吾「僕もだよ!琴葉姉上!」

琴葉「今日は先生の所へ行きましょ
   うか。」

勇吾「うん、行こう!」

琴葉は優しく微笑んだ





琴葉「先生、こんにちは。」

先生「おぉ、よく来たな!琴葉くんと
   勇吾!いらっしゃい!」

勇吾「先生、こんにちは!
   また修行をしに参りました!」

先生「よしよし!いい心構えだ!
   中へ入んなさい。」

先生は人だけど優しくて、俺達のような
まだ幼い妖怪に修行とかを指導して
くれていた

皆、身寄りもなく親を失った子供達ばかりだ

俺もまだ小さい頃、突然襲ってきた人間
達によって両親を失った

人間は許せないけど、先生だけは
信用できた

勇吾「では姉上、修行を頑張って参りま
   す。
   先生、ご指導よろしくお願い
   致します!」

先生「敬語もキチンと出来ているな。
   偉いぞ!」

先生に頭をガシガシと撫でられた

琴葉「うふふ。頑張ってきてね、勇吾。」





~琴葉視点~

「ふぅ…、今日も暑いわね…。」

私は雪女なので暑さに弱く縁側の日陰に
座らせて貰っているが、少しツラい…

そして母上の体質に似て、体が生まれた
時から丈夫にならなかった

「本当は、勇吾達のように私も修行して
 強くなりたいのに…。
 何も出来ずにごめんなさい、
 父上、母上。」

私は空にいるであろう両親に向かって
謝った

勇吾「姉上、何を話していたの?
   僕にも教えて下さい。」

「あ、ら勇吾。休憩に入ったのね。」

勇吾はえへへと笑っていた

「そうね…。私も勇吾達のように丈夫に
 なって修行して強くなりないなーって
 言ってたのよ。」

そう言い勇吾の頭を撫でた

勇吾「……。姉上は強くなる必要はあり
   ません!僕が姉上を守れるくらい
   強くなってみせるよ!」

(こんなに優しい弟に育ったなんて…
 嬉しいわ。
 もう十分勇吾の心は強いわね。)

先生「そうだ、その心意気だ!
   だから頭も良くならないとな。」

勇吾は「は~~い……。」と嫌そうな顔を
しながら返事した

先生「琴葉くん、気分はどうだい?
   何か不調があったら先生にすぐ
   相談するんだぞ?
   医者を呼ぶからな。」

「大丈夫ですよ、先生。
 そんな心配して頂かなくても…。」

勇吾「姉上、ホントに平気?」

「勇吾まで…。今日はホントに体調が
 いいから、私も久しぶりに力使ってみ
 ようかしら。」

私は目を閉じて集中し、手の上に雪の塊を
出した

そして、周りに飛ばすと細かい氷の粒が
降ってきた

子供妖怪A
  「わぁ!すごく気持ちいいー!」

子供妖怪B
  「まるで冬みたい。雪が綺麗!」

子供妖怪C
  「なぁ、勇吾のねーちゃん美人だし
   こんな技使えるのすげーな。」

勇吾「当たり前だろ?俺の自慢の
   姉上だもん!」

先生「うむ。力も安定してるし修行する
   必要はないんじゃないか?」

「そうですか?」

先生は人の中でも稀な術者だった

だから先生の前でいくら力を使っても
気味悪がったりしないので私達妖怪が
安心する1つでもある

先生「琴葉くん、少し寒くなってきた
   のだが…。」

先生はクシャミをし鼻水を垂らしていた

「あっ、すみません!嬉しくてつい…。」

皆から笑いが起こりだした

~琴葉視点 終わり~






こんな風に俺達は十分すぎるくらい
幸せだった

しかしその幸せは突然に壊れた

勇吾「先生今日は遅いね?
   何してるんだろ。」

琴葉「そうね、確かに珍しいわね…。
   いつもなら来ているのに。」

他の皆にも聞いたが分からないらしい

琴葉「何かあったのかもしれないわ…。
   ちょっと見てくるわね。」

そう言い琴葉が戸を開けようとすると

もの凄い音とともに何かが倒れ込んできた

琴葉「きゃあっ!!」

勇吾「姉上!どうしたの!?」

琴葉は尻もちをつき震えていた

琴葉「先生…何があったの?」

勇吾「せ、先生!大丈夫ですか!」

先生はお腹から血が出ており、苦しそうに
抱えていた

琴葉「大変よ、何か鋭いもので切られてい
   るみたい…。
   早く止血しないと!」

先生「そ、そんなことはいい…。
   君たち、早く逃げなさい。」

勇吾「こんな先生置いて逃げれるわけ
   ないです!
   そんなことしたら男として失格
   ですよ!」

先生「男なら時に素早く正しい判断もする
   べきだ!
   いいから逃げなさい!」

先生がそう怒鳴ると

…「あら、そんなに怒鳴ったら子供達が
  怯えてしまうでしょ?
  急ぐことないのに~。皆で仲良く
  なりましょ?」

突然戸の前に美しい女の人と複数の男の人
が立っていた

先生「くっ!もう来たか…。
   私のことは何をしてもいい。
   どうか、子供達には手を出さない
   でくれ!」

…「それは無理な話ね~。
  私は貴方に用があって、
  この人達は妖怪退治をしたいらしい
  から貴方の意見は通らないわ~。」

町民A「こんなに妖怪を手懐けていたと
    はな…。
    お前は此奴らを育てて人間に
    逆襲を企てようとしたんだろ?」

町民B「そうにちげぇねぇ!
   そうじゃ無かったらこんな気味の
   悪い奴らなんて匿わねぇぞ!」

先生「止めろ!この子達は何もしていな
   い!ここからは一歩も通さな
   いぞ。」 

先生は御札を出し、風を巻き起こした

町民A「くそっ、こんな事出来るなんて
   お前も化け物か!
   妖怪共々始末してやる!」

…「穏便に済ませようと思ったけど
  抵抗するなら、ね…。」

先生「皆、今の内に裏口から逃げなさい!
   ここは先生が食い止めておく
   から!」

それを合図に皆は裏口から逃げ出した

しかし逃げる瞬間、あの美しい女の人が
醜い化け物に変化し
先生に向かって糸を出していたのを最後に見た

あれから数十メートルは走った

他の子達と散り散りに逃げていったので
皆が無事かは分からない

琴葉「はぁ、はぁっ…。
   もう追ってきてないかしら…。」

勇吾「分からない。
   それより姉上、大丈夫ですか?」

琴葉「だ、大丈夫よ。まだ安心出来ないか
   ら何処かに隠れましょ。」

隠れられる安全な場所を探していると

町民A「おい!何処だ、妖怪共!」

町民B「あっちにいるかもしれねぇ!
    探してみるか。」

人間達の足音がこちらに近づいてきた

勇吾「姉上、早く逃げましょう!
   ここの小さい穴からなら上手く
   撒けるかもしれないよ。」

岩で挟まれた小さい隙間は多分向こうの
山に繋がる道だった

琴葉「無理よ…、そんな小さい穴は勇吾は
   通れるかもしれないけど
   私には無理だわ…。」

勇吾「それならどうにか隠れながら走って
   逃げ切れば…。」

琴葉「私の体力もいつまで持つか分からな
   いもの。
   それに私は遅いから勇吾まで捕まっ
   てしまうわ。」

勇吾「それでも僕は姉上と一緒に逃げ
   たいんだ!」

琴葉「逃げる前先生に何て言われたか
   覚えてる?」

勇吾「あっ……。」

(先生「男なら時に素早く正しい判断
    もするべきだ!」)

琴葉「ね?勇吾は男なんだから、そんなに
   泣いてたらかっこ悪いわよ?」

泣きじゃくる勇吾の体をそっと包んだ

琴葉「大丈夫よ。私も何とか撒いて
   逃げるから。
   また無事に2人で会いましょ!」

琴葉は勇吾の手に何かを握らせた

勇吾「あっ、姉上。これは?」

琴葉「これはね、母上から貰った大切な
   御守りなんだけどね。
   無事に会えたら、私に返して
   欲しいの。
   これを守っていてね?お願い。」

勇吾「そしたら姉上が無事じゃなくなっ
   ちゃうっ!」

琴葉「私はこれにずっと守られてきたから
   平気なの。母上が祈ってくれた
   からよ。
   だから今度は私が御守りに勇吾が
   無事逃げ切れるようにお祈りした
   から、ちゃんと無事にいてね?」

そう言った姉上は泣くこともなく
いつもの優しい笑顔で微笑んでいた

勇吾「…うんっ!分かった!
   逃げ切れたら絶対に姉上を見つける
   から!姉上もご無事で!」

泣くことを止め、走りだした

そんな小さい勇吾の背中を見つめながら
見送った

琴葉「私の可愛くて、強い勇吾…。
   無事に生きてっ!」

琴葉は静かに一筋の涙を流した





勇吾「っくっ!!」

岩の隙間から逃げ出し、隣までの山道を
走っていった

しかし転んでしまった

(絶対にもう泣くものかっ!
 僕はっ…俺は絶対に誰よりも強い妖怪に
 なってやる!)

それから俺は弱いことで迷惑にならない
ため、誰かを失わないため強くなって
いった…