―埠頭―

 ショベルカーやダンプカーが何度も往来し、陥没事故のあった場所の復旧工事が行われていた。

 消防や警察が、事故現場周辺を深く掘り返し周辺海域にも捜索範囲を広げたが、美濃は発見されず、消防は捜索活動を打ち切り、警察は引き続き捜索を続けるものの、『行方不明者は陥没直前に避難した可能性も捨てきれない』との見解を出した。

 陥没現場には、作業員に紛れ汚れた革ジャンにジーンズ姿の信也が立っていた。あの日と同じ服装だ。

 呆然と復旧工事を見つめる信也。
 その背中は、哀しみに溢れている。

「……信也、心配したよ。病院、大騒ぎだよ」

「……紗紅、よくここだとわかったな」

「あたしも、戻れるものなら、あの日に戻り美濃を助けたい」

「戻れるものならか……」

「紗紅、俺はここで何をしていた?」

「信也は月華に拉致されたあたしを助けてくれたんだ。その時、陥没事故が起きた。あざみもその時に死んだ」

「あざみ……」

(さく)さんの妹だよ」

 信也は、その名を聞き悲しそうな目をした。記憶障害になっても、昔の恋人は覚えているんだね。

「俺はこの地に降り立ち、ずっと『さく』という女を捜していた。咲はその女にとてもよく似ていたが、でも違っていたんだ。彼女は俺が捜していた『さく』ではなかった。それなのに、乱闘事件に巻き込んでしまった。人違いなのに死なせてしまったんだ……」

「……信也? なに言ってるの……?」

「いつか夢は覚めると思っていた。でも俺は死ぬことも許されず、元の場所に戻ることもできなかった。社長や秀さんのようにこの時代に馴染み、この時代で上手く生きていける奴もいるが、俺にはこの時代は合わない。様々な書物を読み漁ったが、戻る手だてがわからなかった」

「……信也、秀さんって。居酒屋のマスターだよね。秀さんの名字は……?」

「この時代では豊臣秀(とよとみひで)と名乗っているが、本当の名は豊臣秀吉(とよとみひでよし)。社長のように本名のまま生きる者もいるが、殆どの者は怪しまれぬように名を変えている。
 この世に落ちた衝撃で、俺や秀さんのように若返る者もいるが、没年齢のままこの地で暮らす者もいる」

 あのマスターの名前が豊臣秀吉?
 それって戦国武将と同姓同名だよ。
 信也……何言ってんの?

 もしかしたら……
 信也もあたしと同じように、戦国時代の夢を見ていたのだろうか?

 信長のことを書物やDVDで観ていた信也。自分と信長を重ね、混乱しているに違いない。

 ――でも……。
 信也のいう元の場所って……。