早く帰りたい。ゆんに会いたい。
彼女の言葉が耳を抜けていく感覚とともに、僕はそんなことばかり考えていた。
けれど、そんな僕の考えを察するどころか、僕の意識が一つも向いていないことを少しも疑わない彼女。
相当鈍感か、脳内お花畑か、自分のことしか考えていないかの3択。
最低なことを考えていることはわかる。
けれど、僕は自分に嘘はつきたくなかった。
引いてくれそうな気配はなく、彼女はただニコニコしながら僕を見ている。
今すぐにでもこの場を去って、早くゆんに会いに行きたい。ゆんに会いたいって、全僕が嘆いている。
『ねえ、聞いてる?』
聞いている。けれど、全部左に流れて行ってしまった。興味ない。
ゆん以外、全部、どうでもいい。
『お願い。私と付き合って、渡来くん』
はぁ、もう、本当に面倒臭いな。
『いいよ』
『えっ』
『いいよ、付き合っても』
これ以上話している時間はもったいない。
引いてくれないなら、告白を受ければいいんだ。彼女はきっと、僕が頷くまで帰らない。
逆を言えば、彼女と付き合えば僕は帰れる。
ゆんに会える。
ゆんに費やす時間が、当時の僕の全てだった。



