俺は携帯で話す万桜の唇ばかり見ていた。

キス…したかった。

万桜が転校してから何人かに付き合って欲しいと言われた。

ずっと好きだった、と。

付き合う事は簡単だった。

でも、そんな気にはならない俺がいた。

万桜以上の子はいなかった。

俺の中にいるのは万桜だけだった。

楽しい時も、辛い時もずっと一緒だった。

やっぱり一番はグラウンドにいる万桜が好きだ。

ボールを追いかけて一生懸命に走る。

その笑顔が一番輝いていたから。

さよならを告げてから気付くなんて。

かえって万桜を苦しめたに違いない。

「潤くん…。」

携帯をまたテーブルに戻す万桜。

「あのさ、返事だけど…この大会が終わったら、俺の最後の大会が終わったら聞かせてくれないかな。」

自信がなかった。

万桜の中にもう俺はいない気がした。

返事を求めたのは、焦っていたからだ。

初めて聖茄学園のサッカー部のキャプテンと副キャプテンに会ったあの日…。

俺は感じた。

俺が万桜を好きになった頃と同じ目をしていた二人。

万桜の中に二人がいるかどうかは分からない。

「…解かりました。」

彼女は静かに頷いた。