万桜はそいつと俺達の前まで来た。
「あの、前の学校の…サッカー部のキャプテンの…。」
「どうも、万桜がお世話になってます。」
まだ言い終わらないうちに、そいつは俺達にそう言った。
その言葉が俺達を突き放す。
「キャプテンと、副キャプテン。」
俺を見て、ヒロを見た。
「万桜、これ。」
ヒロはうつむいたまま、万桜が落としたカバンを差し出した。
「あっ、すいません…。」
万桜は嬉しさと悲しさが混じったような、複雑な表情だ。
「優勝、おめでとうございます。」
「ありがとうございます…。」
そいつはひどく大人に見えた。
ひとつしか違わないのに、とても。
大人しそうに静かな口調。
「俺達も、全国大会行きが決まって。国立で会えますね。」
ゆっくりとそいつは笑う。
「万桜、ちょっと借りていいですか。」
「えっ…。」
一番驚いたのは、万桜本人だった。
「話、あるんだ。」
優しく万桜を見つめる。
返事を待たず、そいつは万桜の肩に手を置き俺達に背を向けた。
行くなよ、万桜。
口に出して言えなかった。
タクシーに乗り込むまでただ、見つめていた。
万桜は一度も振り返ることなく、行ってしまった。
「話って、何かな。」
隣でヒロが呟く。
「………。」
「万桜に会いに来たんだよな。」
「………。」
ヒロの言葉の答えを俺の中で探していた。
分っているのに、それを口にする事が出来なかった。