「俺さ、…好きな子いるんだ。」

また視線を彼女に戻す。

「そうなんですか!!その人幸せですねー、ヒロ先輩に想われて。」

まるで人事のような返事。

いつもの、女を断ち切る時とは違う表現の。

『誰??どこの女??』何度から相手にしたら彼女気取りの女を断ち切る、お決まりのセリフ。

俺は架空の女に頼る、ズルイ男だ。

万桜ちゃんはそれ以上何も聞いてはこない。

まるで、俺に関心がないように。

自分でイラっとするのが分かった。

「どんな子か、知りたい??」

「…んー、どうかな。って先輩、聞いて欲しいんですか??」

ニヤリと笑う彼女の手は止まる事はない。

まだ確証がない気持ちなのに。

なのに、この子の中をアイツじゃなく俺でいっぱいにしたい
そう思った。

「一生懸命で、真面目で…。」

ウンウンと頷きながら、聞いている。

彼女を見つめたまま、続ける。

「ちょっと一途すぎるのが気になるけど。」

「へえっ。」

「…可愛い、サッカー部のマネージャーなんだ。」

「……えっ?!」

手が、動きが止まった。

「そ、それって――。」

そう言った途端、立ち上がり俺に背中を向けた。

いや、本当は気付かないフリしてたんだ。

親友が惚れた女が気になるなんて。

それは有り得ない、と自分で自分の気持ちを否定していたんだ。