「あなたたちまで……そんなに殺されたいの?」


その声色は二人を恐怖に陥れるには十分だった。


「死にたいわけ、ないだろ」
「俺たちだって逃げたい。でも、小河と瀬畑を傷付けたあなたを、このままにすることもできない」


千葉の言葉に、咲は鼻で笑う。


「正義ごっこは楽しい?」


千葉は言い返せない。


「私を捕まえて、あなたたちに一体なにができるのかしら。警察ごっこをしていた彼のように、怪我をする前に離したほうが賢いと思うわ」


瀬畑のことを言っているのだと、すぐにわかった。


小河を保健室に連れて行ったあと、二人は瀬畑を探した。
そして、深い傷を負った瀬畑を見つけたのだ。


瀬畑も保健室に連れて行こうとすると、咲を止めに行ってくれと言われ、二人は今ここにいる。


「……離せば、あんたはみんなを傷付けるんだろ」
「そういうルールだもの」
「だったら、離さない。もう警察だって来てるんだ」


野田は咲を捕まえる手に力を込める。


「……だから?」


咲のその言葉と同時に、千葉が手を離した。
そして背中を丸めて座り込んだ。


「千葉!?」


一瞬どうしたのかと思ったが、すぐに瀬畑のように刺されたのではないかと思った野田は、絶対に離さないと言っていた手を離し、千葉のもとに駆け寄る。


見ると、千葉は痛みをこらえているようで、シャツの腹部は赤く染まっていく。